「創業1年目はまだ利益が少ないから、節税は軌道に乗ってから考えればいい」——そう思ったまま決算や確定申告を迎えてしまう方が、実は少なくありません。しかし、創業1年目の節税で差がつくのは、細かいテクニックの巧拙ではなく、「期限のある制度を期限内に申請・手続きしたかどうか」です。
青色申告の承認申請、開業費の集計、小規模企業共済への加入、少額減価償却資産の特例——いずれも創業初年度から使える強力な制度ですが、その多くは「事前の申請」や「期限内の手続き」が適用の条件になっています。あとから「知っていれば使えたのに」と悔やんでも、原則としてさかのぼって適用することはできません。
この記事では、創業1年目にやるべき節税対策を優先順位の高い順に整理します。なお、本記事で紹介する金額や要件は2026年7月時点の制度に基づくものです。税制改正で変わる可能性があるため、最新の情報は国税庁サイト等で必ず確認してください。節税全体の考え方や制度の一覧は節税対策の記事一覧(ハブページ)もあわせてご覧ください。
創業1年目の節税は「期限のある制度を取りこぼさないこと」が9割
節税というと「経費をたくさん使う」「グレーな処理で税金を減らす」といったイメージを持たれがちですが、創業1年目に本当に効果が大きいのは、国が用意した合法的な制度を漏れなく使うことです。そして、その多くには申請期限や加入手続きが設けられています。
創業1年目に「期限」を意識すべき代表的な制度は次のとおりです。
- 青色申告の承認申請:個人は原則開業から2か月以内、法人は原則設立から3か月以内などの期限あり
- 開業費の集計:開業前の支出は、領収書が残っていなければ計上が難しくなる
- 小規模企業共済:加入した月からしか掛金を積めない(さかのぼり不可)。なお経営セーフティ共済は「1年以上の事業継続」が加入要件のため、創業1年目は加入できない(後述)
- 少額減価償却資産の特例:青色申告が前提。事業年度内に取得・使用開始している必要がある
- 消費税・インボイスの届出:課税事業者の選択やインボイス登録は、タイミングを誤ると取り返しがつきにくい
逆にいえば、この5つを期限内に押さえるだけで、創業1年目の節税の大部分は完了します。以下、優先順位の高い順に見ていきましょう。
最優先は青色申告——申請期限を逃すと初年度の恩恵がゼロに
創業1年目の節税で最優先すべきは、間違いなく青色申告の承認申請です。理由はシンプルで、青色申告は「他の多くの節税策の前提条件」になっているうえ、申請期限を1日でも過ぎると初年度は白色申告になってしまうからです。
個人事業主の青色申告:最大65万円の控除と赤字の3年繰越
個人事業主が青色申告を選ぶと、主に次のメリットがあります。
- 青色申告特別控除(最大65万円):複式簿記による記帳と貸借対照表の添付に加え、e-Taxによる申告または電子帳簿保存の要件を満たすと65万円。要件を一部満たさない場合は55万円または10万円の控除になります。
- 純損失(赤字)の3年間繰越控除:創業1年目に赤字が出ても、翌年以降3年間の黒字と相殺できます。初期投資がかさむ1年目にこそ効く制度です。
- 青色事業専従者給与:家族に支払う給与を、届出の範囲内で必要経費にできます。
- 少額減価償却資産の特例:後述する「40万円未満の即時償却」が使えるのは青色申告者だけです。
法人の青色申告:欠損金を10年間繰り越せる
法人の場合、青色申告の最大のメリットは欠損金の10年間の繰越控除です。創業初年度は設備投資や採用などで赤字になりやすいものですが、青色申告をしていれば、その赤字を最長10年にわたって将来の黒字と相殺できます。設立1期目の赤字を「将来の節税の原資」に変えられるかどうかは、青色申告の承認を受けているかどうかで決まります。また、後述する少額減価償却資産の特例(1つ40万円未満の資産の即時償却)も、青色申告の承認を受けた中小企業者等だけが使える制度です。
なお、法人の場合は青色申告とあわせて役員報酬の設計も初年度の重要テーマです。役員報酬は原則として期首から3か月以内に決めた金額を毎月同額で支給する必要があるため、こちらも「期限のある意思決定」といえます。詳しくは役員報酬の決め方と節税の記事で解説しています。
青色申告の申請期限(原則)
| 区分 | 主なメリット | 承認申請の期限(原則) |
|---|---|---|
| 個人事業主 | 最大65万円の特別控除、赤字の3年繰越、少額減価償却資産(40万円未満)の即時償却 ほか | 開業日から2か月以内(1月1日〜1月15日に開業した場合はその年の3月15日まで) |
| 法人 | 欠損金の10年繰越、少額減価償却資産(40万円未満)の即時償却 ほか | 設立日から3か月以内と最初の事業年度終了日の、いずれか早い日の前日まで |
期限の数え方には細かい例外があるため、開業届・設立届と同じタイミングで青色申告の承認申請書も一緒に提出してしまうのが、最も確実で漏れのない方法です。
経費と開業費を漏らさない——開業前の支出も償却できる
次に取り組むべきは、地味ですが効果が確実な「経費の漏れをなくすこと」です。創業1年目は、事業とプライベートの支出が混在しやすく、経費にできるはずの支出を計上し忘れているケースが非常に多く見られます。自宅兼事務所の家賃や通信費の按分、事業用に使った車両費、打ち合わせの飲食代など、事業に関連する支出は根拠を持って経費計上しましょう。
特に見落とされがちなのが開業費です。開業前に支払った市場調査費、セミナー参加費、打ち合わせ費用、備品購入費(10万円未満)などは、「開業費」という繰延資産として計上し、開業後に任意のタイミングで償却(経費化)できます。つまり、利益が出た年にまとめて償却して税負担を抑える、といった調整が可能な、創業者だけに認められた柔軟な制度です。開業費の範囲や具体的な処理方法は開業費の記事で詳しく解説しています。
経費を漏らさないための土台は、日々の記帳体制です。レシートを溜め込んでから思い出しながら入力するのではなく、会計ソフトと銀行口座・クレジットカードを連携させて、取引が発生した週のうちに記録する仕組みを作りましょう。記帳体制の作り方は経理・会計のカテゴリの記事が参考になります。
共済の2本柱——小規模企業共済と経営セーフティ共済
青色申告と経費の土台ができたら、次は「支払った掛金がそのまま控除・損金になる」共済制度を検討します。国の機関(中小機構)が運営する制度で、節税と資金の備えを同時に実現できるのが特徴です。ただし加入資格には大きな違いがあります。小規模企業共済は開業したばかりの1年目でも加入できますが、経営セーフティ共済は「継続して1年以上事業を行っている中小企業者」が加入要件のため、創業1年目は原則として加入できません。
小規模企業共済——掛金全額が所得控除になる「経営者の退職金」
小規模企業共済は、個人事業主や小規模な会社の役員のための退職金積立制度です。掛金は月1,000円から70,000円まで500円刻みで自由に設定でき、支払った掛金の全額が所得控除になります。年間最大84万円の控除は、所得税・住民税をあわせると大きなインパクトがあります。
- 掛金:月1,000円〜70,000円(増額・減額可能)
- 税務メリット:掛金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象
- 受取時:退職所得または公的年金等の雑所得として、税負担が軽い形で受け取れる
- 対象:個人事業主、共同経営者、小規模企業の役員(会社の「事業としての加入」ではなく個人・役員単位)
注意点は、短期間(一般に20年未満など)での任意解約では元本割れの可能性があることです。無理のない掛金で早く始めて長く続けるのが基本戦略になります。
経営セーフティ共済——加入できるのは2年目から。「課税の繰延べ」である点にも注意
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、本来は取引先の倒産に備える制度ですが、税務上のメリットから節税策としてもよく使われます。
まず前提として、加入できるのは「継続して1年以上事業を行っている中小企業者」です(中小機構の定める加入資格)。事業開始から1年未満の創業初年度は原則として加入できません。したがって創業1年目の時点では、「2年目に入ったら検討する制度」として内容を押さえておく、というのがこの記事での位置づけです。
- 掛金:月5,000円〜200,000円(年間最大240万円)を損金または必要経費に算入できる
- 積立上限:累計800万円まで
- 解約手当金:40か月以上納付していれば任意解約でも掛金の100%が戻る
ただし、必ず理解しておくべき注意点があります。解約手当金を受け取った時点で、その全額が益金(個人は収入金額)として課税対象になるということです。つまり経営セーフティ共済は税金を消してくれる制度ではなく、課税のタイミングを将来にずらす「課税の繰延べ」です。利益が大きい年に掛金を積み、赤字の年や退職金の支給年など利益が小さい年に解約する、といった「出口の設計」までセットで考えて初めて節税効果が生まれます。また、解約後の再加入に対する損金算入の制限など、制度の細部は改正が続いている分野です(2026年7月時点の制度。税制改正で変わるため、最新は国税庁サイトや中小機構の案内で確認してください)。
少額減価償却資産の特例——40万円未満の資産は即時償却できる
パソコン、デスク、応接セット、業務用の機器など、通常10万円以上の資産は数年に分けて減価償却しますが、青色申告をしている中小企業者等であれば、取得価額40万円未満の減価償却資産を、年間合計300万円までその年(事業年度)に全額経費化できます。これが「少額減価償却資産の特例」です。上限額は税制改正により、2026年4月1日以後に取得する資産から従来の30万円未満→40万円未満に拡充されています(2026年3月31日以前に取得した資産は30万円未満で判定します)。
創業1年目はパソコンや什器などの購入が集中するため、この特例の恩恵を最も受けやすいタイミングです。適用のポイントは次のとおりです。
- 青色申告者であること(白色申告では使えない)
- 1つあたりの取得価額が40万円未満であること(2026年4月1日以後の取得分。税込経理なら税込、税抜経理なら税抜で判定)
- 年間合計300万円が上限(事業年度が1年に満たない場合は月割り)
- 期末までに取得し、実際に事業の用に供して(使い始めて)いること
「買っただけで倉庫に眠っている」状態では適用できない点、また明細書の添付など申告上の手続きが必要な点に注意してください。この特例は適用期限が定められ、延長を繰り返してきた制度です(2026年7月時点の制度。税制改正で変わるため、最新は国税庁サイト等で確認してください)。
消費税・インボイスは「あえて課税事業者になるか」の選択
創業1年目は、基準期間の売上がないため、多くの場合は消費税の免税事業者からスタートできます。ただし、取引先が企業中心の場合、インボイス(適格請求書)を求められて課税事業者への登録を検討せざるを得ないケースが少なくありません。
ここでの判断は「免税のままでいるか」「インボイス登録して課税事業者になるか」「課税事業者になるなら簡易課税や2割特例をどう使うか」という多段階の選択になり、売上構成や取引先によって有利不利が変わります。安易にどちらかに決める前に、インボイス制度の選択戦略の記事で判断の流れを確認してください。届出書の提出期限を過ぎると選択を変えられない期間が生じる点も、青色申告と同じく「期限のある制度」です。
やってはいけない「節税」——浪費と脱税は節税ではない
最後に、創業1年目の経営者が陥りがちな「間違った節税」を挙げておきます。
- 不要なものを買って経費を増やす:税金は利益の一部です。10万円の不要品を買って減る税金は数万円にすぎず、手元資金は確実に10万円減ります。節税のための浪費は、資金繰りを悪化させるだけです。
- 売上を隠す・除外する:これは節税ではなく脱税です。銀行口座や取引先の記録から容易に把握され、重加算税など重いペナルティの対象になります。
- 架空の経費を計上する:実体のない外注費や水増しした領収書も同様に脱税です。融資や取引の信用も失い、事業の継続そのものを危うくします。
創業期に本当に大切なのは、税金を極限まで減らすことではなく、手元資金を厚く保ちながら、使える制度を正しく使い切ることです。「節税額」より「手取りのキャッシュ」で判断する習慣をつけましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 創業1年目は赤字の見込みです。それでも青色申告を申請する意味はありますか?
あります。むしろ赤字の年こそ青色申告の価値が大きくなります。個人なら赤字を3年間、法人なら10年間繰り越して将来の黒字と相殺できるのは青色申告だけです。1年目の赤字を申請漏れで「ただの赤字」にしてしまうのは大きな損失です。
Q2. 小規模企業共済と経営セーフティ共済、どちらを先に始めるべきですか?
一般的には、掛金が全額所得控除になり出口(退職所得等)の税負担も軽い小規模企業共済を無理のない金額で先に始め、事業開始から1年以上経過して加入資格を満たし、利益が安定してきたら、課税の繰延べである経営セーフティ共済を上乗せする順番が考えやすいでしょう。ただし資金繰りや所得の状況によって最適解は変わるため、金額設定を含めて税理士に相談することをおすすめします。
Q3. 開業前に買った備品の領収書を一部なくしてしまいました。開業費にできませんか?
原則は領収書等の証憑が必要ですが、クレジットカードの明細や銀行の振込記録、注文履歴などで支払いの事実と内容を客観的に示せれば、経費・開業費として認められる余地はあります。あきらめる前に記録を集めて整理し、判断に迷う場合は税理士に確認してください。今後は領収書を即日撮影・保存する仕組みを作っておきましょう。
まとめ——創業1年目は「申請・加入・記録」を期限内に
創業1年目の節税は、①青色申告の承認申請を期限内に出す、②経費と開業費を漏らさず記録する、③共済・少額償却・インボイスなどの制度を自社の状況に合わせて選択する——この3ステップに集約されます。どれも派手さはありませんが、期限内に手を打ったかどうかで、2年目以降の税負担と資金繰りに確実な差がつきます。その他の節税策は節税対策のハブページから体系的に確認できます。
なお、本記事の内容は一般的な制度の解説であり、適用の可否や有利不利は事業の状況によって異なります。個別の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
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