「創業したばかりの小さな会社に、税務調査なんて来ないだろう」と考えている方は少なくありません。たしかに設立直後の会社にいきなり調査が入るケースは多くありませんが、「創業間もないから対象外」という制度上の免除は存在しません。実地調査が行われる割合は、法人・個人事業主とも年間で数%程度が目安とされています(正確な数値は年分ごとに変動するため、国税庁が公表している「法人税等の調査事績の概要」などの資料をご確認ください)。この記事では、2026年7月時点の情報をもとに、創業間もない会社に税務調査が来る時期、選ばれやすい会社の特徴、そして最初の連絡が来たときの対応を整理します。
結論:設立直後は少ないが、3期目以降は「普通に」対象になる
まず結論からお伝えします。設立1〜2期目の会社に税務調査が入ることは、消費税の還付申告や無申告など特別な事情がない限り多くありません。調査官が申告内容を検討するには、複数期の決算を並べて比較する材料が必要だからです。
一方で、3期目以降になると状況は変わります。3期分の決算がそろえば、売上や利益の推移、経費率の変化といった「比較」ができるようになり、通常の調査対象として選ばれる土台が整います。つまり、創業間もない会社にとって税務調査は「遠い将来の話」ではなく、「数年以内に来てもおかしくないもの」として捉えておくのが現実的です。
だからといって、過度に恐れる必要はありません。日々の記帳と証拠書類の保存がきちんとできていれば、調査は「聞かれたことに根拠を示して淡々と説明する手続き」です。税務調査の全体像は税務調査の記事一覧(ハブページ)でも解説していますので、あわせてご覧ください。
税務調査が入りやすいタイミング
創業期の会社に調査が入りやすいのは、主に次の4つのタイミングです。
設立3期目以降(比較できる決算がそろったとき)
前述のとおり、決算が3期分そろうと、期ごとの数字の動きを比較できるようになります。売上規模が伸びてきた会社、利益が安定して出始めた会社は、税務署から見て「確認する価値のある納税者」になっていきます。3期目・4期目あたりで初めての調査を経験する会社は珍しくありません。
消費税の還付申告をしたとき
設備投資や輸出取引などで消費税の還付申告をすると、税務署は還付金を支払う前にその内容を確認する必要があります。そのため、創業初年度であっても、多額の還付申告に対しては書面や電話での問い合わせ、場合によっては実地調査が行われることがあります。還付申告そのものは正当な権利ですので、根拠となる請求書や契約書をすぐに提示できる状態にしておくことが大切です。
売上・利益が急増したとき
前期比で売上が大きく伸びた、あるいは利益が急に増えた・減ったという変動は、調査先の選定において注目されやすいポイントです。急成長自体は喜ばしいことですが、成長期こそ経理が追いつかず、売上の計上時期のずれや経費の根拠不足が起きやすい時期でもあります。数字が大きく動いた期ほど、記帳と証拠の整理をていねいに行っておきましょう。
無申告の場合
会社を設立したのに申告をしていない、事業を始めたのに確定申告をしていないという「無申告」の状態は、期数にかかわらず調査の対象になります。税務署は、法人設立届出書や取引先が提出する支払調書、銀行口座の動きなどから事業の存在を把握できます。無申告のまま調査を受けると、本来の税額に加えて無申告加算税などの負担が上乗せされます。心当たりがある場合は、調査を待たずに自主的に申告することを強くおすすめします。
調査先に選ばれやすい会社の特徴
税務署は限られた人員で調査先を選定するため、「申告内容に確認すべき点がありそうな会社」から優先的に選びます。選定にあたっては、申告データを蓄積・分析するシステムを用いて、同業種・同規模の水準から外れた数値や期ごとの不自然な変動が機械的に抽出されているといわれます。そのうえで、創業期の会社で該当しやすい特徴は次のとおりです。
- 現金商売である(飲食店・美容室・小売店など):現金のやり取りは銀行口座に記録が残りにくく、売上の計上漏れが起きやすい業態として、業種単位で注目されやすい傾向があります。
- 粗利率などの数字が大きく変動している:同じ事業内容なのに粗利率が期によって大きく上下していると、「売上の除外や原価の水増しがないか」という確認の対象になりやすくなります。
- 外注費の金額が大きい:外注費は「実態は給与ではないか(源泉徴収の要否)」「消費税の仕入税額控除は適切か」という2つの論点を持つ科目です。建設業やIT業など外注比率の高い業種では特に見られやすい項目です。
- 同業他社と比べて経費率が高い:税務署は業種ごとの平均的な数値を把握しています。交際費や旅費交通費などが同業水準から大きく外れていると、確認の優先度が上がります。
- 取引先の調査からの波及(反面調査):取引先に税務調査が入った際、取引の実在性や金額を確認するために自社へ問い合わせや調査が及ぶことがあります。これは自社の申告に問題がなくても起こり得ます。
これらに当てはまるからといって、必ず調査が来るわけではありません。ただ、該当する項目が多い会社ほど、日頃から取引の証拠を残しておく重要性が高いといえます。調査で具体的にどこを見られるかは税務調査でチェックされるポイントで詳しく解説しています。
調査の種類:ほとんどは事前通知のある「任意調査」
「税務調査」と聞くと、ある日突然大勢の調査官が押しかけて段ボール箱を運び出していく、という映画やドラマの場面を思い浮かべる方が多いのですが、あれは「強制調査(査察)」と呼ばれる別の手続きです。創業間もない中小企業に行われる調査は、原則として「任意調査」です。両者の違いを整理すると次のようになります。
| 任意調査 | 強制調査(査察) | |
|---|---|---|
| 実施主体 | 税務署・国税局の調査部門 | 国税局査察部 |
| 事前通知 | 原則あり(電話などで連絡) | なし(裁判所の令状に基づく) |
| 日程調整 | 可能 | 不可 |
| 主な対象 | 一般の法人・個人事業主 | 悪質・多額の脱税が疑われる場合 |
| 目的 | 申告内容の確認と是正 | 刑事告発を視野に入れた証拠収集 |
任意調査では、原則として事前に電話などで通知があり、調査日程も相談のうえで決められます。通常は1〜2日程度、調査官1〜2名が事務所を訪れて帳簿や書類を確認する、落ち着いた手続きです。強制調査は悪質かつ多額の脱税が疑われるケースに限られる別物であり、通常の創業期の会社が心配する必要はほとんどありません。事前通知から調査終了までの具体的な進み方は税務調査の流れで解説しています。
なお、実地調査のほかに、税務署から「お尋ね」と呼ばれる文書や電話で申告内容の確認を求められることがあります。これは行政指導にあたるもので、調査そのものではありませんが、放置すると実地調査に進む入口にもなり得ます。届いた場合は事実に基づいて誠実に回答しましょう。また、現金商売など一部の業種では、例外的に事前通知のない調査(無予告調査)が行われることもありますが、その場合でも調査官の身分証明書の提示を求め、顧問税理士に連絡してから対応を始めることは認められています。
最初の連絡(事前通知)が来たときの動き方
ある日、税務署から「調査に伺いたい」という電話が入ったら、次の順番で動いてください。ここでの初動が、その後の調査の進み方を大きく左右します。
1. 慌てず、通知内容をメモする
事前通知では、調査の開始日時・場所・対象となる税目・対象期間などが伝えられます。電話口ですべてに即答する必要はありません。担当者の所属と氏名、伝えられた内容を落ち着いてメモしましょう。不明な点は遠慮なく聞き返して構いません。
2. 日程は調整できる
提示された日程に業務上の都合がつかない場合、合理的な理由があれば日程変更の相談は可能です。決算業務の繁忙や出張予定などを伝え、帳簿や書類の準備に必要な時間を確保できる日程に調整しましょう。ただし、意図的な引き延ばしは心証を悪くするだけですので避けてください。
3. 税理士がいれば必ず共有し、立会いを依頼する
顧問税理士がいる場合は、通知を受けたその日のうちに必ず連絡してください。税務代理権限証書を提出している税理士であれば、事前通知の段階から税理士を窓口にすることもできます。調査当日の立会いを依頼すれば、専門的な論点のやり取りを任せられ、不用意な回答による誤解も防げます。税理士がいない場合でも、調査開始前に単発で相談・立会いを依頼できる事務所はあります。
4. 書類を後から作り直す・破棄するのは絶対にNG
これが最も重要な注意点です。通知を受けてから、日付をさかのぼって領収書や契約書を作成する、都合の悪い書類を破棄する、帳簿を書き換えるといった行為は、絶対にしないでください。こうした行為は「仮装・隠蔽」と評価され、重加算税(過少申告の場合、追加本税の35%が目安)の対象となるほか、調査官の心証を決定的に悪化させます。書類の不備や処理の誤りがあるなら、その事実をそのまま説明するほうが、結果としてはるかに軽い着地になります。
5. 対象期間の帳簿と書類をそろえ、事前に見直す
調査当日までに、通知された対象期間の帳簿・請求書・領収書・通帳などを整理し、自社(可能であれば税理士と一緒に)で申告内容を見直しておきましょう。このとき誤りに気づいた場合、調査の事前通知後であっても、指摘を受ける前に自主的に修正申告をすれば、加算税の負担が軽減される場合があります。誤りを隠すのではなく、先に正すという姿勢が結果的に最も傷を浅くします。なお、調査の結果は、申告内容に問題がなければ「申告是認」、誤りがあれば「修正申告」または税務署による「更正」という形で着地します。誤りがあった場合でも、指摘内容に納得できなければその場で安易に応じず、税理士と相談したうえで対応を決めて構いません。
創業期からできる備えは「月次の記帳」と「証拠の保存」
税務調査への最大の備えは、調査の連絡が来てから慌てて行う対策ではなく、日々の経理そのものです。具体的には次の2つに集約されます。
- 月次で記帳を締める:売上・経費を毎月記帳し、月ごとに数字を確定させておけば、決算間際の駆け込み処理や記憶頼みの仕訳がなくなり、調査で説明に窮する場面が大きく減ります。
- 取引の証拠を保存する:請求書・領収書・契約書・見積書・メールなど、取引の実在性と金額を示す書類を日付順に整理して保存します。帳簿書類には法定の保存期間(法人は原則7年、欠損金がある事業年度は10年)があり、電子取引のデータ保存ルールへの対応も必要です。
創業期から保存しておきたい書類の例
調査で提示を求められることが多い書類は、おおむね次のとおりです。設立初年度から、これらを「すぐ出せる場所」に整理しておきましょう。
- 総勘定元帳・仕訳帳などの帳簿類
- 売上に関する書類(請求書控え・納品書控え・レジデータ・売上台帳)
- 仕入・経費に関する書類(請求書・領収書・レシート・クレジットカード明細)
- 預金通帳(法人口座だけでなく、事業に使った個人口座も確認されることがあります)
- 契約書・見積書・発注書などの取引関係書類
- 給与台帳・源泉徴収簿・扶養控除等申告書などの人件費関係書類
- 株主総会議事録・役員報酬の改定に関する記録(法人の場合)
「帳簿と証拠がそろっていて、聞かれたことに根拠を示して答えられる」状態であれば、調査は淡々と進みます。逆に、記帳が遅れて証拠が散逸している会社ほど調査は長引き、厳しい認定を受けるリスクも高まります。創業期の記帳体制の作り方は経理の基礎の記事一覧を参考に、早い段階で仕組みを整えておきましょう。調査で実際に確認される書類・項目はこちらの記事でも整理しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 税務調査では何年分さかのぼって見られますか?
通常の任意調査では、直近3年分(3期分)を対象とするのが一般的です。調査の過程で誤りが見つかるなど状況によっては5年分に広がることがあり、仮装・隠蔽といった悪質な不正が認められた場合は最長7年分までさかのぼって課税され得ます。創業間もない会社であれば「設立から現在まで」が事実上の上限になりますが、だからこそ設立初年度からの帳簿と書類をきちんと残しておくことが重要です。
Q2. 個人事業主にも税務調査は来ますか?
来ます。税務調査は法人だけの制度ではなく、個人事業主やフリーランスも対象です。実地調査が行われる割合は個人でも年間数%程度が目安とされています(正確な数値は国税庁の公表資料をご参照ください)。特に、現金商売の方、売上が1,000万円弱で推移している方(消費税の課税事業者となる基準の付近)、無申告の方は選ばれやすい傾向があります。また、法人成りをした場合、法人設立前の個人事業時代の申告が調査対象になることもあります。
Q3. 調査を断ることはできますか?
「任意調査」という名称ですが、実質的に断ることはできません。納税者には調査に応じる受忍義務があり、正当な理由なく帳簿の提示や質問への回答を拒むと罰則の対象になり得ます。「任意」の意味は、強制調査のような令状に基づく手続きではない、という点にとどまります。ただし本文で述べたとおり、日程の調整は可能ですし、税理士の立会いを求めることもできます。「断る」のではなく「準備を整えて受ける」が正しい構えです。
まとめ:恐れるより、備える
創業間もない会社にも、3期目以降になれば税務調査は普通に来る可能性があります。一方で、その大半は事前通知があり日程調整もできる任意調査であり、月次の記帳と証拠書類の保存という基本を設立初年度から積み重ねておけば、過度に恐れる必要はありません。本記事の要点は次の3つです。
- 設立直後の調査は少ないが、3期目以降・消費税還付・売上急増・無申告は要注意のタイミング
- 事前通知が来たら、慌てず日程を調整し、税理士に共有する。書類の作り直し・破棄は絶対にしない
- 最大の備えは、月次の記帳と取引証拠の保存を設立初年度から続けること
なお、本記事の内容は2026年7月時点の一般的な情報です。調査割合などの統計数値は年分により変動するため、最新の数値は国税庁の公表資料をご確認ください。また、実際に事前通知を受けた場合や、過去の申告に不安がある場合の対応は、個別の事情によって最適な動き方が変わります。具体的な判断は、必ず税理士に相談してください。
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