創業融資は「借りたら終わり」ではありません。毎月の返済を利益でまかなえているかを管理し、元金と利息を正しく仕訳することが、借入後の実務の柱になります。この記事では、借入金の勘定科目と場面別の仕訳例、元利均等・元金均等の返済シミュレーション、返済原資の考え方、資金繰り表への反映方法までを一通り整理します。
まず押さえる原則 — 元金の返済は費用にならない
借入金の返済で最初につまずきやすいのが、「毎月13万円返しているのに、経費になるのは利息の1万円台だけ」という感覚のずれです。会計上、費用になるのは利息(支払利息)だけで、元金の返済は「借入金という負債が減った」だけの取引として処理します。損益計算書には登場しません。
これは資金繰りに大きな意味を持ちます。元金は経費にならない以上、税金を払った後の利益から返すことになるからです。損益計算書が黒字でも、返済額が利益を上回っていれば手元資金は確実に減っていきます。「黒字なのにお金が残らない」と感じたら、まずこの構造を疑ってください。
借入金の勘定科目 — 短期と長期の区分
借入金は返済期限によって勘定科目を使い分けます。基準は「決算日の翌日から1年以内に返済期限が来るかどうか」(ワンイヤールール)です。
| 勘定科目 | 内容 |
|---|---|
| 短期借入金 | 返済期限が1年以内の借入。運転資金のつなぎ融資、当座貸越など |
| 長期借入金 | 返済期限が1年を超える借入。創業融資(5〜10年返済)はほぼこちら |
| 1年内返済予定の長期借入金 | 長期借入金のうち、決算日から1年以内に返済する部分。決算時に振り替える |
| 役員借入金 | 社長個人が会社に貸したお金。金融機関からの借入とは区別して管理する |
創業融資は返済期間が長いため、原則として「長期借入金」で受け入れ、決算のたびに翌1年分を「1年内返済予定の長期借入金」へ振り替えるのが丁寧な処理です(中小企業の実務では長期借入金のまま管理する例もあります。表示方法は税理士等に確認してください)。
場面別の仕訳例
① 融資が実行されたとき
例:1,000万円の融資が実行され、事務手数料1万円が差し引かれて普通預金に入金された場合(金額は目安の例です)。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 999万円 | 長期借入金 | 1,000万円 |
| 支払手数料 | 1万円 |
信用保証協会付き融資で保証料が差し引かれた場合、保証料は原則として返済期間に対応させて費用化します(長期前払費用に計上して期間按分)。日本政策金融公庫の融資には保証料はありません。
② 毎月の返済時
例:口座から13万5,000円が引き落とされ、内訳が元金11万9,000円・利息1万6,000円だった場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 長期借入金 | 11万9,000円 | 普通預金 | 13万5,000円 |
| 支払利息 | 1万6,000円 |
元金と利息の内訳は、金融機関から交付される返済予定表に月ごとに記載されています。会計ソフトに毎月の内訳を登録しておくと、仕訳を自動化できます。「返済額の全額を支払利息にしてしまう」のは創業期に本当に多い誤りなので注意してください。
③ 決算時(長期→短期への振替)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 長期借入金 | 143万円 | 1年内返済予定の長期借入金 | 143万円 |
返済シミュレーション — 元利均等と元金均等
返済方式には2種類あり、毎月の負担カーブが変わります。
| 元利均等返済 | 元金均等返済 | |
|---|---|---|
| 毎月の返済額 | ずっと一定 | はじめ多く、だんだん減る |
| 総利息 | やや多い | やや少ない |
| 向いているケース | 開業直後の負担を平準化したい | 早く残高を減らしたい |
例として、1,000万円を年利2%・7年(84回)で借りた場合の目安を比べると、元利均等では毎月約12.8万円で一定、総利息は約73万円。元金均等では初回約13.6万円から徐々に減っていき、総利息は約71万円です(いずれも概算の目安。実際の金利・条件は金融機関の返済予定表で確認してください)。
大切なのは方式の損得よりも、「毎月の返済額が、毎月の利益の範囲に収まっているか」です。据置期間(元金の返済を待ってもらえる期間)を使った場合は、据置明けに返済額が跳ね上がる点も織り込んでおきましょう。
返済原資の考え方 — 利益+減価償却費
返済の原資は、次の式で確認します。
年間の返済原資 = 税引後利益 + 減価償却費
減価償却費はお金の出ていかない費用なので、返済に回せるキャッシュとして足し戻します。この返済原資が年間の元金返済額を上回っていれば、事業の稼ぎで返済が回っている状態です。逆に下回っている場合は、手元資金を取り崩しながら返している状態なので、経費構造か売上計画の見直しが必要です。
金融機関が追加融資の際に見る債務償還年数(借入残高 ÷ 返済原資)も、この式の応用です。10年以内が一つの目安とされます。追加融資のタイミングと準備もあわせてご覧ください。
資金繰り表への反映
- 利息 → 経常収支の支出(毎月の営業の中で払うもの)
- 元金返済 → 財務収支の支出(借入・返済のグループ)
- 借入の実行 → 財務収支の収入
経常収支(本業のお金の出入り)がプラスで、財務収支のマイナス(返済)を吸収できているのが健全な形です。月次でこの2段構えを見る習慣をつけると、資金ショートの兆候に早く気づけます。運転資金の考え方は黒字倒産を防ぐ運転資金の考え方で詳しく解説しています。
よくある質問
社長個人が会社に貸したお金はどう処理しますか?
「役員借入金」で処理します。金融機関からの借入と混ざらないよう補助科目を分けておくと、決算書の見え方も資金管理も楽になります。なお、金融機関は役員借入金を実質的な自己資本とみなしてくれることもあります。
余裕ができたら繰上返済すべきですか?
利息は減りますが、創業期は手元資金の厚みが信用と安全のもとです。低金利の借入を急いで返すより、運転資金3〜6か月分を確保したうえで判断するのが実務的です。個別の判断は資金繰りの状況を見て税理士等に相談してください。
返済が苦しくなりそうなときは?
延滞する前に金融機関へ相談するのが鉄則です。条件変更(リスケジュール)や借換えの選択肢は、延滞が発生する前のほうが広く残っています。月次の試算表と資金繰り表を持って早めに動きましょう。
借入後の記帳・月次管理の全体像は経理・会計ガイドで、融資後の実務は融資後の返済・会計処理ガイドでも整理しています。会計処理の個別判断は、必ず税理士等の専門家にご確認ください。