創業1年目の経理・税務は、ひと言でいえば「期限との戦い」です。税務の手続きには、期限を1日でも過ぎると使えなくなる制度(代表例が青色申告の承認申請)と、忘れると延滞税や不納付加算税といったペナルティが発生する納付の2種類があります。前者は「権利を失うタイプ」、後者は「罰金がつくタイプ」の期限であり、どちらも「知らなかった」では取り返しがつかないことが多いのが実情です。開業直後の忙しい時期にこそ、時系列で全体像を押さえておくことが重要です。
本記事では、開業直後に出すべき届出から、毎月のルーティン、年間の税務イベント、決算・申告まで、創業1年目に起こることを月別に整理します。まずは全体をざっと読み、以後は毎月の初めに該当する月の項目を見返す、という使い方がおすすめです。なお、期限や数値はいずれも原則的な取り扱いを記載しています。2026年7月時点の情報であり、税制改正により変わる可能性があるため、最新の情報は必ず国税庁や各自治体のサイトでご確認ください。個別のケースの判断は、税理士など専門家への相談をおすすめします。
開業直後にやること|期限つきの届出一覧
まず、開業・設立の直後に提出期限が迫る届出を整理します。ここが創業1年目の最初の山場です。特に青色申告の承認申請は、期限を過ぎるとその年(年度)は白色申告しか選べなくなり、創業1年目に使える節税策の多くが封じられてしまいます。
| 届出・手続き | 対象 | 期限(原則) |
|---|---|---|
| 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書) | 個人 | 開業から1か月以内 |
| 青色申告承認申請書 | 個人 | 開業から2か月以内(1/1〜1/15開業はその年の3/15まで) |
| 青色申告承認申請書 | 法人 | 設立から3か月と最初の事業年度末の、いずれか早い日の前日まで |
| 法人設立届出書 | 法人 | 設立から2か月以内(税務署)+都道府県・市区町村にも別途届出 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 共通(給与を払う場合) | 開設から1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認申請書 | 共通(給与の支給人員が常時10人未満) | 随時(承認された翌月支給分からの適用が目安) |
| 役員報酬の決定 | 法人 | 設立から3か月以内(定期同額給与) |
| インボイス(適格請求書発行事業者)登録 | 共通(必要な場合) | 取引先との関係を踏まえ要否を判断 |
提出方法は、e-Tax(電子申請)・税務署の窓口・郵送のいずれでも構いません。いずれの場合も、提出した届出の控え(電子申請なら受信通知)は必ず保存しておきましょう。融資の申し込みや補助金の申請、屋号つき口座の開設などで「開業届の控え」の提示を求められる場面が意外と多くあります。
【個人】開業届と青色申告承認申請はセットで
個人事業主の場合、開業届の提出期限は開業日から1か月以内が原則です。開業届自体は遅れてもペナルティはありませんが、問題は青色申告承認申請書です。こちらは原則として開業から2か月以内(1月1日〜1月15日に開業した場合はその年の3月15日まで)が期限で、過ぎると1年目は白色申告になります。青色申告なら最大65万円の青色申告特別控除(e-Tax申告等の要件あり)、赤字の繰越(原則3年)、家族への給与を経費にできる青色事業専従者給与など、実利の大きい特典が使えます。書式はどちらもA4で1枚、記入は30分もかかりません。開業届と同時に提出してしまうのが確実です。
【法人】設立届は税務署・都道府県・市区町村の3か所へ
法人の場合、税務署への法人設立届出書(設立から2か月以内が原則、定款の写しなどの添付が必要)に加えて、都道府県税事務所と市区町村(東京23区は都税事務所のみ)にも設立の届出が必要です。税務署に出して満足してしまい、地方への届出を忘れるケースが少なくありません。地方税の届出を怠ると、法人住民税の均等割などの通知が届かず、あとから納付が遅れる原因になります。
また、法人の青色申告承認申請は「設立の日から3か月を経過した日」と「最初の事業年度終了の日」のいずれか早い日の前日までが期限です。たとえば決算日を設立から2か月後に設定した場合、青色申告の申請期限も前倒しになります。設立後すぐに決算日が来る事業年度の設計をした場合は特に注意してください。
給与を払うなら「給与支払事務所」と「納期の特例」
役員報酬や従業員給与を支払う場合は、給与支払事務所等の開設届出書を開設から1か月以内に提出します。あわせて検討したいのが源泉所得税の「納期の特例」です。原則は源泉徴収した所得税を翌月10日までに毎月納付しますが、給与の支給人員が常時10人未満なら、申請により年2回(1〜6月分を7月10日、7〜12月分を1月20日)にまとめられます。
注意点は適用開始のタイミングです。特例は申請した月の翌月に支給する給与分からの適用が目安で、申請月分までは原則どおり翌月10日納付が必要です。「申請したからもう毎月の納付は不要」と思い込み、切り替わり前の分を納め忘れるのが典型的なミスです。創業期の事務負担を大きく減らせる制度なので、該当するなら早めに申請しつつ、切り替わり月だけは慎重に確認しましょう。
【法人】役員報酬は設立3か月以内に決める
法人の役員報酬は「定期同額給与」が原則で、事業年度開始(設立)から3か月以内に決定し、以後は原則として毎月同額を支給しないと損金算入が認められません。期中に「儲かったから増やす」「苦しいから減らす」が自由にできない点が、個人事業との大きな違いです。金額は、生活費として必要な額、法人と個人の税・社会保険料のバランス、会社に残す運転資金の3つの観点から決めるのが基本です。決め方の詳細や期中変更が認められる例外は役員報酬の決め方の解説記事で詳しく説明しています。
インボイス登録の要否は取引先次第
創業直後は原則として消費税の免税事業者ですが、主要な取引先が事業者(BtoB)の場合、インボイス(適格請求書)の発行を求められることがあります。登録すれば消費税の申告・納付義務が生じる一方、未登録だと取引先が仕入税額控除の面で不利になるため、取引継続の条件として登録を求められるケースもあります。逆に、顧客が一般消費者中心(BtoC)であれば、急いで登録する必要性は高くありません。売上構成と取引先の意向を踏まえて要否を判断しましょう。なお、免税事業者からインボイス登録した場合の負担軽減措置(いわゆる2割特例など)は適用期限が定められているため、2026年7月時点の最新の適用状況を国税庁サイトで確認するか、税理士に相談するのが安全です。
税務以外の手続きも並走する(社会保険・労働保険)
税務署への届出と並行して、法人は設立時に年金事務所へ健康保険・厚生年金保険の新規適用届(設立から5日以内が目安)を提出します。役員1人だけの会社でも、役員報酬を支給するなら社会保険への加入は原則必要です。さらに従業員を雇った場合は、労働基準監督署での労災保険、ハローワークでの雇用保険の手続きが加わります。税務のカレンダーとは提出先も期限も別系統なので、「税務署・年金事務所・労基署・ハローワーク」の4か所を意識してチェックリスト化しておくと漏れを防げます。
毎月のルーティン|締めのリズムをつくる
届出が一段落したら、次は毎月の経理リズムづくりです。月次のルーティンは次の4つに集約されます。
- 記帳の月次締め:会計ソフトへの入力・銀行やカードの明細連携を月に一度は締める
- 請求書の発行・保存:発行した請求書の控えと、受け取った請求書・領収書を保存する
- 源泉徴収と納付:給与や税理士報酬などから源泉徴収した所得税を翌月10日までに納付(納期の特例なら7月10日と1月20日の年2回)
- 社会保険料の納付:健康保険・厚生年金の適用事業所は、保険料を毎月末(原則)に納付
月次締めの手順はシンプルで構いません。(1)銀行口座・クレジットカードの明細を会計ソフトに取り込む、(2)現金払いのレシートを入力する、(3)売掛金・買掛金の入金・支払を消し込む、(4)試算表を眺めて売上と利益をざっと確認する——この4ステップを月初の1〜2時間で回すイメージです。帳簿や証憑の保存期間は原則7年(目安)と長く、電子データで受け取った請求書等には電子帳簿保存法の保存ルールも関わります。仕組みづくりの詳細は経理の基本カテゴリの記事を参考にしてください。
「毎月締める」習慣は、後述する確定申告・決算の負担を劇的に軽くします。逆にここを溜め込むと、1年目の終盤にすべてのツケが回ってきます。
創業1年目の年間カレンダー|月別の税務イベント
次に、1年を通じた税務イベントを月別に整理します。個人は暦年(1〜12月)、法人は自社の決算月を基準に読み替えてください。期限はいずれも原則であり、2026年7月時点の取り扱いです。改正されることがあるため、実際の手続きの前に国税庁・各自治体の最新情報を必ずご確認ください。
| 月 | 主な税務イベント(原則の期限) |
|---|---|
| 1月 | 納期の特例分の源泉所得税納付(1/20)/法定調書合計表・給与支払報告書の提出(1/31)/償却資産申告(1/31) |
| 2〜3月 | 個人の所得税確定申告(2/16〜3/15)/個人事業者の消費税申告・納付(3/31) |
| 6月 | 住民税の特別徴収税額の改定(新年度の通知にもとづき6月支給の給与から変更) |
| 7月 | 納期の特例分の源泉所得税納付(7/10)/社会保険の算定基礎届(7/10)/労働保険の年度更新(6/1〜7/10目安) |
| 12月 | 年末調整(給与を支払っている場合) |
| 決算月+2か月 | 【法人】法人税・地方税・消費税の申告・納付(決算日から2か月以内) |
| 2期目以降 | 前期の税額によっては法人税・消費税などの中間申告・納付が発生する可能性 |
1月は「事務作業がまとめて来る月」
1月は、納期の特例分の源泉所得税(1/20)、税務署への法定調書合計表、市区町村への給与支払報告書、そして事業用の設備等に課される償却資産税の申告(いずれも1/31目安)と、提出物が集中します。年末年始の繁忙期明けにまとめてやろうとすると確実に苦しくなるため、12月の年末調整とあわせて前倒しで準備しておきましょう。
2〜3月は個人の確定申告シーズン
個人事業主の所得税の確定申告は2月16日〜3月15日、消費税の課税事業者であれば消費税の申告・納付は3月31日までが原則です。毎月の記帳ができていれば、確定申告は「1年分の集計と申告書の作成」だけで済みます。3月は所得税の納付(振替納税なら4月の引き落とし)もあるため、資金の準備も忘れずに。
6〜7月は給与まわりの手続きが集中
従業員がいる場合、6月支給の給与から住民税の特別徴収税額が新年度分に切り替わります。7月は納期の特例分の源泉所得税(7/10)、社会保険の算定基礎届(7/10)、労働保険の年度更新(6/1〜7/10目安)と、給与関連の手続きが立て込む月です。創業1年目でも、年の途中から人を雇えばこれらの手続きが発生します。
12月の年末調整と、法人の決算スケジュール
給与を支払っていれば、12月には年末調整が必要です。従業員から扶養控除等の申告書や保険料控除の証明書を回収する必要があるため、11月中に案内を始めるとスムーズです。法人の最大イベントは決算で、決算日から2か月以内に法人税・地方税・消費税の申告と納付を行います。決算月の前月までに在庫・売掛金・固定資産の状況を整理し、決算月の翌月から集計・申告書作成に入る、という逆算スケジュールを組みましょう。申告内容の正確さと証憑の整備は、将来の税務調査への何よりの備えになります。
2期目以降は「中間申告」が加わる可能性
創業1年目にはありませんが、2期目以降は中間申告・中間納付が加わる可能性があります。目安として、法人税は前期の税額が20万円を超えると事業年度の中間時点で予定申告・納付が必要になり、消費税も前期の年税額に応じて年1回〜複数回の中間納付が発生します(個人の所得税にも予定納税の仕組みがあります)。1年目に利益が出た場合、2期目は「前期分の納税」と「中間納付」が同じ年に重なるため、資金繰りのインパクトが想像以上に大きくなります。ここもあらかじめカレンダーに織り込んでおきましょう。
特につまずきやすい3つのポイント
1. 青色申告の期限切れ
創業1年目の失敗で最も多いのが、青色申告承認申請の出し忘れです。この申請だけは後から取り返しがつかず、1年目の特別控除や赤字繰越の権利を丸ごと失います。創業1年目は先行投資で赤字になることも多く、その赤字を翌年以降の黒字と相殺できるかどうかは、資金繰りに直結する差になります。対策はただ一つ、「開業届(設立届)と同時に出す」を鉄則にすることです。
2. 消費税・社会保険料という「あとから来る大きな支払い」
消費税は売上と一緒に入金されるため自分のお金のように見えますが、実際には後日まとめて納付する「預り金」に近い性格のお金です。社会保険料も、会社負担分を含めると給与額面の約15%(目安)が毎月出ていきます。さらに2期目以降は、前期の税額によって中間申告・納付が加わり、支払いの回数自体が増えます。対策としては、売上の一定割合(消費税相当分+法人税等の概算)を納税用の別口座に毎月移しておく方法が有効です。納付期限の直前に「お金がない」となるのが、創業期の資金ショートの典型パターンです。
3. 記帳の溜め込み
「落ち着いたらまとめてやろう」は、ほぼ確実に破綻します。半年分のレシートの山を前に記憶を掘り起こす作業は、月次で締める場合の何倍もの時間がかかるうえ、経費の計上漏れや誤りの温床になります。また、帳簿が遅れていると自社の損益がリアルタイムで見えず、値付けや投資の判断も勘頼みになってしまいます。月に一度、「経理の日」をカレンダーに固定し、その日は他の予定を入れない——この単純なルールが一番効きます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 期限が土日祝日にあたるときはどうなりますか?
申告・納付の期限が土曜・日曜・祝日等にあたる場合は、原則としてその翌平日が期限になります。たとえば3月15日が日曜日なら、確定申告の期限は3月16日(月)です。ただし手続きによって取り扱いが異なる場合もあるため、期限ぎりぎりを狙わず、余裕をもって前倒しで済ませるのが安全です。
Q2. 届出を出し忘れていたことに気づいたら?
気づいた時点で、できるだけ早く所轄の税務署に相談してください。開業届や設立届のように、遅れても提出すれば足りるものが多い一方、青色申告承認申請は原則として遡って適用できず、翌年(翌事業年度)からの適用となります。「もう遅いから」と放置すると翌年分の期限まで逃すことがあります。すぐに動くことが重要です。
Q3. 個人事業と法人で大きく違う点はどこですか?
主な違いは3つです。第一に申告時期で、個人は毎年2〜3月の確定申告と決まっているのに対し、法人は自社で決めた決算月から2か月以内の申告です。第二に役員報酬のルールで、法人は定期同額給与の制約により期中の自由な増減ができません。第三に届出先で、法人は税務署に加えて都道府県・市区町村への届出が必要です。このほか、法人は赤字でも法人住民税の均等割(目安として年7万円程度〜)が発生する点も覚えておきましょう。どちらの形態でも、迷ったら早めに税理士へ相談することをおすすめします。
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