創業期のキャッシュフロー管理表の作り方
売上があっても資金が足りなくなる黒字倒産を防ぐため、入出金予定を見える化する方法を解説します。
利益と現金は別物——黒字倒産はこうして起きる
損益計算書のうえでは利益が出ているのに、手元の現金が尽きて支払いができなくなる。これがいわゆる「黒字倒産」です。原因はシンプルで、売上を計上するタイミングと、実際にお金が入金されるタイミングがズレていることにあります。
多くの企業間取引では、商品やサービスを納品した時点で売上を計上しますが、入金は「月末締め・翌々月末払い」のように後からやってきます。この納品から入金までの期間を「売掛サイト」と呼びます。一方で、仕入代金や家賃、給与といった支払いは、入金を待ってはくれません。
例として、3月に100万円の売上を計上したケースを考えます。取引条件が「月末締め・翌々月末払い」なら、入金されるのは5月末です。ところがその間も、4月分・5月分の家賃、仕入代金、従業員への給与は先に出ていきます。帳簿のうえでは3月に100万円の利益要素が立っていても、4月・5月の手元資金はむしろ減り続けるわけです。この2か月間を乗り切れる現金が手元になければ、黒字のまま資金がショートします。
逆のズレもあります。経費を計上するタイミングと、実際に支払うタイミングのズレです。たとえばクレジットカードで支払った経費は、利用した月に費用計上されますが、口座から引き落とされるのは翌月以降です。減価償却費のように、費用計上されてもお金が出ていかないものもあります。つまり、損益計算書の利益と手元現金の増減は、そもそも一致しないのが普通なのです。
こうした事態を防ぐ道具が「資金繰り表(キャッシュフロー管理表)」です。損益ではなく現金の出入りだけを、入金日・支払日ベースで並べた表で、数か月先の残高がどう動くかをあらかじめ見えるようにします。
資金繰り表のつくり
資金繰り表の基本構造は「前月から繰り越した現金に、当月の収入を足し、当月の支出を引いて、翌月へ繰り越す」というだけのものです。行は大きく分けて、収入(現金売上・売掛金の回収・借入による調達)と、支出(仕入・人件費・家賃・その他経費・税金や社会保険料・借入金の返済)で構成します。まずは月次のサンプルを見てみましょう(数字はすべて例です。単位:万円)。
| 項目 | 4月 | 5月 | 6月 |
|---|---|---|---|
| 前月繰越 | 200 | 158 | 91 |
| 収入:現金売上 | 30 | 30 | 35 |
| 収入:売掛金回収 | 80 | 60 | 120 |
| 収入:借入 | 0 | 0 | 0 |
| 支出:仕入 | 50 | 55 | 60 |
| 支出:人件費 | 60 | 60 | 60 |
| 支出:家賃 | 15 | 15 | 15 |
| 支出:その他経費 | 10 | 10 | 10 |
| 支出:税金・社会保険 | 12 | 12 | 30 |
| 支出:借入返済 | 5 | 5 | 5 |
| 当月収支 | ▲42 | ▲67 | ▲25 |
| 翌月繰越 | 158 | 91 | 66 |
この例で注目してほしいのは、翌月繰越の残高が200万円→158万円→91万円→66万円と毎月減り続けている点です。6月は大口の売掛金回収(120万円)があるにもかかわらず、税金・社会保険の納付が重なって残高はさらに減っています。損益計算書だけを見ていると気づきにくいこの「じわじわ減っていく動き」を、資金繰り表は一目で教えてくれます。残高が減るトレンドが3か月続くようであれば、売上の入金条件や支出の構造を見直すサインです。
作り方の手順
資金繰り表は、次の4つの手順でつくります。難しい会計知識は必要ありません。
① 口座残高からスタートする
今日時点の預金残高と手元現金の合計を「前月繰越」の欄に置きます。帳簿上の数字ではなく、実際の残高から始めるのがポイントです。
② 確定している入出金を先に置く
家賃、給与、借入返済、税金・社会保険料など、金額と支払日がほぼ確定しているものを先に埋めます。これらは交渉の余地が小さい「固定的な出金」なので、先に置くことで毎月の最低ラインが見えます。
③ 売上の入金は「入金日ベース」で保守的に
売上は計上日ではなく、実際にお金が入る日で記載します。入金が遅れる可能性のある取引先の分は、1か月後ろにずらすなど保守的に見積もるのが安全です。「たぶん入るだろう」という楽観的な数字は、資金繰り表では禁物です。実際の入金が予測より早い分には困りませんが、遅い場合は支払いに直結するからです。
④ 3〜6か月先まで伸ばす
1か月分だけでは打ち手が間に合いません。融資の申し込みから入金までは1〜2か月かかることもあるため、資金が細る月を3か月以上前に把握できてはじめて、余裕をもった対応ができます。最低3か月、できれば6か月先まで作りましょう。残高が特に厳しい月だけは、月単位ではなく週単位・日単位に区切って精度を上げるのも有効です。ツールはエクセルで十分ですが、会計ソフトの資金繰り機能を使えば実績データと連動できて更新の手間が減ります。ソフト選びは会計ソフトの選び方で比較しています。
見落としやすい「大きな山」
資金繰りが崩れる典型パターンは、毎月の支払いではなく、特定の月にだけやってくる大きな支出を見落とすことです。次の4つは特に注意してください。
- 消費税・法人税の納付月——決算日から原則2か月以内にまとめて納付します。特に消費税は、日々の売上に含めて「預かっているお金」であるという意識がないと、納付月に一気に資金が減って驚くことになります。売上とは別枠で積み立てておくのが安全です。
- 社会保険料の増える月——賞与を支給した月は、毎月の給与分に加えて賞与分の社会保険料も発生します。賞与額の約15%(会社負担分。数字は例です)が上乗せされるイメージで見込んでおきましょう。
- 労働保険の年度更新——毎年6〜7月に、1年分の概算保険料をまとめて納付します。従業員が増えた年は前年より金額が大きくなります。
- 借入の据置期間の終了——創業融資で元金の返済を据え置いている場合、据置期間が終わった月から毎月の出金が一段増えます。いつから返済が始まるか、返済予定表で確認して資金繰り表に反映しておきましょう。
これらの「山」は、いつ来るかがあらかじめ決まっているものばかりです。創業1年目の経理・税務カレンダーで月別の納付スケジュールを確認し、該当する月の資金繰り表に先に書き込んでおきましょう。
危険サインと打ち手
資金繰り表を毎月更新していると、危険なパターンが数か月前に見えてきます。代表的なサインは次の3つです。
- 翌月繰越が月商の半分を切る——入金が1本遅れただけで支払いに窮する水準です。
- 特定の入金1本に依存している——その取引先の支払遅延が、そのまま自社の資金ショートに直結します。
- 受注が伸びるほど資金が苦しくなる——売上が増えると、仕入や人件費の先払いも増えます。入金より支払いが先に膨らむ「増加運転資金」は、成長期特有の落とし穴です。
サインが見えたら、打ち手は早いほど選択肢が多くなります。まず検討したいのは、取引先との入金サイトの短縮交渉や、着手金・前受金をもらう契約への切り替えです。あわせて、仕入先への支払サイトの調整を相談できれば、入金と支払いのズレそのものを小さくできます。それでも足りない場合は借入で備えますが、追加融資は残高が減ってからではなく、減る前に動くのが鉄則です。金融機関は「まだ余裕のある会社」にこそ貸しやすいためです。資金繰り表を持って相談に行けば、必要額と返済原資を数字で説明でき、審査もスムーズになります。資金繰り表は、社内の管理資料であると同時に、金融機関との対話のための資料でもあるのです。
通帳が過去のお金の記録なら、資金繰り表は未来の通帳です。月に1回、実績を反映して先の見通しを更新するだけで、資金の不安は大きく減ります。月次の更新作業はひとり経理の仕組み化と組み合わせて、経理ルーティンに組み込んでしまいましょう。
創業準備で迷ったら、次の実務も確認しましょう
創業辞書では、創業期の経営者が判断しやすい実務情報を整理しています。必要に応じて、税理士・司法書士・社会保険労務士など適切な専門家と連携しながら確認することをおすすめします。
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